日本語の音読み、訓読みと違って、中国語の漢字は基本的に1つの読み方しかありませんが、例外となる漢字(同形異音語、中国語で“多音字(duōyīnzì)”と言います)が100以上もあります。
今回は、中国人もよく戸惑う“卡”という漢字の2つの発音、【qǐa】と【kǎ】の相違をすっきりさせましょう!
例文は最も日常で使いそうなものを選んでいますので、語感を高める狙いも込みで、ぜひ例文の隅々まで理解し、一文ごと頭に入れていってくださいね。
この記事では中国語ネイティブの筆者が
同形異音語“卡”に対して【qǐa】で読む場合と【kǎ】で読む場合の、それぞれの意味や例文について紹介します。
“卡”という漢字
(図の引用:baidu百科、https://baike.baidu.com/item/卡/5994)
「上」と「下」の文字が一つになり、上にもいけず下にも行けず、間に挟まっちゃった状況を表すのが“卡”。なかなか見事な表現力ですよね。
井伏鱒二「山椒魚」の中で、山椒魚が成長しすぎて頭が出口につかえて岩屋から出られなくなった苦境を、中国語では“进退两难(jìn tuì liǎng nán)”と言います。まさにという感じですね…
山椒鱼卡在洞口,进退两难。
shān jiāo yú ● zài dòng kǒu ,jìn tuì liǎng nán。
山椒魚が穴の入り口に挟まって、進退窮まってしまった。
ですね。
“卡”の発音は?
では、“山椒鱼卡在洞口,进退两难”の“卡”の発音は?
「分かる!ここは動詞として使われているから【qǐa】!」
優秀な学習者なら即答すると思います。
ところが、実はこの文を中国人が見たとき、その大半が“卡在洞口(kǎ zài dòng kǒu)”と読んでしまいます。
つまり“卡”という漢字が動詞として使われるとき、本来教科書や辞書では【qǐa】として学んでいるのに、実際は【kǎ】として読まれていることが多いんです!私もネイティブですが、やっぱりそう感じます。
従来、“卡”には名詞性と動詞性があって、名詞性としては“卡片(kǎ piàn)”「カード」、“关卡(guān qiǎ)”「関所」のように両方の発音がありますが、動詞性としては【qǐa】という読みしかありません。
日本出版の辞典では時々差異がありますが、標準中国語の最も権威のある辞典『现代汉语词典』第7版では今だにこのように規定されています。
“卡”を【qiǎ】と発音する時の名詞
テレビ放送など正式な場もやはりこれに従って【qiǎ】と読むと思うのですが、日常ではなぜ【kǎ】という読み方ばかり聞くのでしょうか?
地域の差や方言の影響などもありますが、一般的には“卡”が【kǎ】として名詞の中で現れる頻度が高すぎるからだと思われます。
“关卡(guān qiǎ)”「関所」や“税卡(shuì qiǎ)”「関所」の他に、“卡”を【qiǎ】として読む名詞を、思い出してみてください。
日常で見かけるのは、せいぜい“发卡(fà qiǎ)”「ヘアクリップ」、“卡子(qiǎ zi)”「ヘアクリップなどの止めクリップ」といった類しかないでしょう。(“卡口灯泡(kǎ kǒu dēng pà”「差し込み電球」や“卡具(qiǎ jù)”「差し込み/取り付け具」の単語は極稀に使いますが割愛します。)
辞書にもこれくらいの名詞例しか載っていません…
“卡”を【kǎ】と発音する時の名詞
ところが“卡”【kǎ】となると、これはもう数えきれないほどの名詞があります!
我用小卡片记单词。
(wǒ yòng xiǎo kǎ piàn jì dān cí 。)
私はカードを使って単語を覚えています。
A:(饭店用餐后)服务员,结账!
(fàn diàn yòng cān hòu ) fú wù yuán , jié zhàng !
(飲食店の食事後)店員さん、お勘定!
B:现金还是刷卡?
(xiàn jīn hái shì shuā kǎ?)
現金ですか?キャッシュレスですか?
A:刷银联卡。
(shuā yín lián kǎ。)
銀連カードでお願いします。
小小一杯奶茶,就有300卡路里/大卡呢!
(xiǎo xiǎo yì bēi nǎi chá ,jiù yǒu 300 kǎ lù lǐ / dà kǎ ne!)
小さなタピオカティー一杯でも、300kcalもあるよ!
卡车和货车的外观区别在于卡车是无棚的,沒有遮掩,而货车是四周封闭的,看不见装的什么货物。
(kǎ chē hé huò chē de wài guān qū bié zài yú kǎ chē shì wú péng de , méi yǒu zhē yǎn ,ér huò chē shì sì zhōu fēng bì de , kàn bú jiàn zhuāng de shén me huò wù)
トラックと貨車の外観的な違いとして、トラックは蓋がなく(荷物を)覆い隠すものがないのに対して、貨車は周りが密閉式で中に何の荷物が入っているのか分からない、ということがあげられる。
听说东京街头可以一边cosplay一边开卡丁车,他跃跃欲试。
(tīng shuō dōng jīng jiē tóu kě yǐ yì biān (cosplay) yì biān kāi kǎ dīng chē , tā yuè yuè yù shì 。)
東京の道上でコスプレしながらレーシングカートを運転できると聞いて、彼はやりたくてうずうずしている。
他にも“卡拉OK(kǎ lā OK)”「カラオケ」、“卡通(kǎ tōng)”「アニメーション」、“卡尺(kǎ chǐ)”「ノギス」などの名詞があって枚挙にいとまがありません。
税関やクリップ類じゃなければ【kǎ】と読んで、まず問題ありません。恐らく皆これを聞き慣れた影響で、動詞性の場合でもつい【kǎ】のほうが上位になってきたと思われます。
動詞性の“卡”の使い方
最後にやはり動詞性の“卡”がいかに日常生活の中国語で活躍できるか?いくつか超超日常的な例をあげてみますね。
鱼刺卡在喉咙里了!
(yú cì qiǎ zài hóu lóng lǐ le!)
魚の骨が喉に刺さった。
失业了,仿佛被命运卡住了咽喉。
(shī yè le,fǎng fú bèi mìng yùn qiǎ zhù le yān hóu 。)
失業して、運命の手に締め付けられている感じだ。
“被命运卡住了咽喉”はちょっとお洒落で、よく見かける比喩ですね。
ちなみにイメージとして、喉(や通路)に何かが詰まったり、手で締め付けられたりする「痛い!」時は、やはり【qiǎ】の発音がまだ多少優位のようですが。以下の例なんかは完全に筆者も【kǎ】と読んでいますよ。
电脑太旧了,总是卡。
(diàn nǎo tài jiù le,zǒng shì qiǎ/kǎ 。)
パソコンが古いからよくフリーズしている。
太累了,思维/大脑卡壳了!
(tài lèi le ,sī wéi /dà nǎo qiǎ/kǎ ké le!)
疲れすぎて、思考/頭が停止になっちゃった!
中国人は物事のやり方が柔軟だというイメージですが、実は漢字発音の最高参考基準となる『现代汉语词典』も、漢字の日常における使用状況に合わせ、発音などを5~10年に一度くらいの頻度で修正しています。
第七版辞典は、“点赞”「いいね!👍」が収録してあります。まだ“卡”についての変化が見られませんが、いつか大衆の力で【kǎ】にも正式な動詞権が賦与されるかもしれませんね!
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大家好!中国語学習中の「一体どっち?戸惑うな〜」という所を「すっきり!」させるのが趣味の苗ですw