台湾ではどんな中国語が話されている?
ここでは、台湾ではどんな中国語が話されているのかについて説明します。
台湾華語
「せっかく日本で中国語を習ったけど、台湾では通じないの?」
そんな不安を持っている方も多いかもしれません。
でもご安心ください、台湾でも日本で習った中国語(一般的に学習する「普通话」、以下「普通話」)は十分通じます。台湾でも広く「中国語」が使われています。
台湾で使われている中国語は、一般的に「國語/guó yǔ)」、「中文/zhōng wén」と呼ばれています。台湾華語は、中華民国が制定した標準語で、日本国内で一般的に習う中国語(普通話)同様、北京官話をベースにして作られた中国語です。
普通話と言語のベースが同じであるため、台湾でも日本で習った中国語は基本的には通じます。ただし、台湾華語は、発音やイントネーションが普通話と異なるものもあります。
詳しくは「台湾の中国語の発音・声調の特徴は?」で紹介しますが、一般的に台湾で使われる中国語はアクセントがあまり強くなく、普通話ほど抑揚がないのが特徴です。
私自身もそうですが、中国で留学や仕事をしていた人や普段中国人(特に北方出身者)と接触機会が多い人は、台湾で話される中国語は聴き取りにくいと感じる人もいるかもしれません。
台湾華語以外の言語
また、台湾では標準語である台湾華語以外にも「台湾語」も多く使われています。台湾では標準語を「國語(guó yǔ)」と呼ぶのに対し、台湾語のことは「台語(tái yǔ)」と呼びます。
台湾語は、中国福建省の南部にいる閩南人(びんなんじん)が使う「閩南語(びんなんご)」をルーツとしています。地図を見たらわかりますが、福建省は台湾に最も近い省で、明清朝時代から交易などで往来が多く、多くの閩南人が台湾に渡りました。その結果、台湾でも閩南語が使われるようになり、次第に土着化していったのが台湾語です。台湾語は、台湾北部より南部、都市部より地方、若者より高齢者の方が使用頻度は高い傾向があります。
それ以外にも、閩南人と同じく中国から台湾に渡った客家人が持ち込んだ「客家語」、台湾の人口の計2%を占める16の原住民族がそれぞれ使う「原住民語」、日本統治時代に義務教育を受けた人が使う「日本語」なども使われています。
台湾は面積が日本の九州と同じくらい、人口は日本の1/5程度(約2,300万人)の島国ですが、実に多くの言葉が使用される多言語国家なんですね。
また、中国語と台湾語は文法こそ共通点はあるものの、発音はかなり異なり、声調は中国語の4種類に対し8種類あります。残念ながら中国語を習っていても台湾語は全く聞き取れません。
例えば、“你好”。中国語では「你好(ニーハオ)」ですが、台湾語は「你好(リーホー)」。ありがとうは中国語では“谢谢(シェイシェ)”ですが、台湾語では“多謝(ドゥオシァー)”といいます。
中国語が堪能な私の友人が台中出身の人と結婚したのですが、周りは全員台湾語で、まったく会話が聞き取れず、異国の地で非常に激しい孤立感を味わったそうです。
また、あれだけ中国語を流暢に話せる福原愛さんでさえ、離婚の際には「言葉の壁」があったと言っていたことからも、中国語と台湾語の違いは感じ取れますね。
「簡体字」と「繁体字」の違いは?
「簡体字」と「繁体字」
ご存知の方も多いと思いますが、中国語には「簡体字」と「繁体字」の二つの字体があります。簡単に特徴をまとめると以下のようになります。
主に中国やシンガポール、マレーシア、アジアの華僑の人などが使用。従来の漢字を簡略化した字体。1956年«汉字简化方案»により制定された。
台湾、香港(ホンコン)、マカオやアメリカのチャイナタウンなどで使用。従来より使用されてきた字体。正字、正体字とも呼ばれる。簡体字と比べ圧倒的に画数が多い。
簡体字は名称の通り、元々あった漢字の偏や旁の一部、または全体を簡略化してあらわしているものが多いのが特徴です。
例)
・習→习
・業→业
・陽→阳
漢字を日頃から使っている日本人にとっては、規則性を覚えさえすれば理解はしやすいと思います。
一方の繁体字は、簡体字より画数は多いですが、日本の常用漢字もしくは旧漢字と同じものも多いです。繁体字の方が日本人ならそのまま見てわかる漢字もあるので、とっつきやすいかもしれません。
例)
・豊→豐
・医→醫
・学→學
また、同じ繁体字を使っている台湾と香港でも、漢字の用法や字体に違いがあります。わかりやすいところでは、台湾では「台」を「臺」と書きますが、香港では一律に「台」と書いています。
時おり、ネット上やSNSなどで「簡体字は読みにくい」、「簡体字は美しくない」、「繁体字の方がいい」といったような字体の良し悪しを問うような記事や投稿を見かけます。個人的には良し悪しの問題ではなく、比較するものでないと思っています。
歴史的背景
歴史的に見ても、文字は国を統治するための重要な政策の一つ。国を統治するにあたり、征服した異民族の文字を容認するか排除するかは、その国の思想そのものを反映するものでした。簡体字、繁体字も例外ではありません。
漢字を簡略化した簡体字は、国民の識字率をあげるための中国の教育施策の一つです。現在中国で一般的に使用されている簡体字は、清末から本格的に研究が開始されたものが基礎となっています。
その後、中華民国時代、国共内戦の時代も一般庶民にもわかる国語を浸透させたい共産党が漢字の簡略化の研究を進め、中華人民共和国建国後の1956年に«汉字简化方案»を公布。2,000以上の漢字を簡略化しました。その後、1986年に《简化字总表》の新版が公布され、ようやく今の形に落ち着いた字体です。
一方繁体字は、もともと中国の中華民国時代の指導政党であった国民党が、従来から使われている漢字こそが、中華民国の国語の唯一無二の正統な文字だと主張した字体。中華民国時代、国共内戦の時代も一貫して共産党が推進する漢字の簡略化を拒否し続けました。
従来からの漢字を使用している国民党こそが国を統治するにふさわしい党である、ということを広く誇示したかったという思いもあったと推測しています。
最終的に戦後、国民党が中国大陸から台湾に持ち込んだのが、現在も台湾で使用されている繁体字です。
どちらの字体も国の思想を反映しながら歴史とともに歩んできた文字です。
これらの文字に“良い”も“悪い”も“優劣”もありません。言語を学ぶのであれば、その言語や文字の歴史的背景に思いを馳せながら学んでいくと、より理解が深まり、愛着がわくものではないかというのが私の考えです。
台湾の中国語の発音・声調の特徴は?
『「簡体字」と「繁体字」の違いは』でも触れましたが、台湾華語(國語)は、戦後国民党により台湾にもたらされた言語で、それまで台湾の人々は閩南語、客家語、もしくは日本語を用いて会話をしていました。
そのような状況下で、台湾華語が標準語として普及が推し進められてため、台湾人の話す中国語は、大陸で話されている中国語とは発音や声調に違いがみられます。
台湾人の発音の訛りは“台湾腔(tái wān qiāng):台湾訛り”とも言われますが、ここではこの台湾腔についてまとめてみました。
声調の抑揚がゆるやか
中国語には第1声から第4声までの4つの声調があります。中国で話す中国語は、この4つの声調の抑揚をはっきりつけて話します。
一方、台湾の中国語は抑揚が少なく音が比較的平坦。そのため台湾人の話す中国語は柔らかいというイメージを受ける人が多いです。
私自身も台湾人の話す中国語は、とめどなく流れるように言葉が進んでいく印象を持っています。毎回台湾に旅行に行くと、会話をする最初の数人は耳がついていかず聞き取りに苦労しています。
舌を巻かない
ピンイン表記で「zh」「ch」「sh」「r」で表される子音は「そり舌音(巻き舌音)」と呼ばれ、舌を上に巻いて発する音です。日本語にはない音なので、中国語を学ぶ日本人が苦労する発音の一つですが、台湾人は舌をあまり巻かずに発音します。
そのため、そり舌音の発音は台湾では以下のように聞こえることが多いです。
普通話の発音 | 台湾の発音 |
「zhi (ジ)」 | 「zi(ズ)」 |
「chi (チ) 」 | 「ci(ツ)」 |
「shi (シ)」 | 「si (ス)」 |
例えば、日本語で「おいしい」という意味の”好吃(hǎo chī)”は、中国大陸では「ハオチー」のように聞こえますが、台湾の発音では「ハオツー」のように聞こえます。
なお、台湾だけではなく、中国でも南下すればするほど、舌を反らせずに発音する傾向が強くはなります。
私は広州に留学していましたが、”10”を「スー」と発音するので、買い物の際は「4元」なのか「10元」なのかがわからず、指数字の「10」の使用頻度が非常に高かった思い出があります。
鼻音「n」と「ng」の区別しない
台湾では「en」と「eng」、「an」「ang」の発音の区別をあまりしません。そのため、舌の付け根で発音する「eng」「ang」を、舌先で発音する「en」「an」で発音します。
以下は、同じように聞こえる単語の発音の例です。
翻(fān)≒ 方(fāng)
分(fēn)≒ 豐 (fēng)
軽声が少ない
中国語には「軽声」と呼ばれる1声から4声に属さない、軽く短く発音する音があります。ただ、台湾では中国で軽声になるものが軽声にならない単語が多いのも特徴の一つです。
例えば、「もの」を意味する“東西(dōng xī)”
中国語では「西」は「xi シ」と軽く発音しますが、台湾では「xī シー」と1声で発音します。
語尾がつく
台湾人は「啊」「喔」「噢」「哦」「啦」「耶」「嘛」などをよく会話の語尾につけます。日本語だと「〜だよ」「〜だね」「〜でしょ」のような語感です。
例えば、可以啊~(kě yǐ ā:いいよ~)、 好可愛喔~(hǎo kě ài ō:とてもかわいいよ~)のような感じです。これらの単語の発音は台湾語の語尾音に由来しており、台湾人の中国語では多用されることが多いようです。
上記の相違点以外に、台湾華語には普通話と声調が異なる単語や、発音自体が全く異なる単語がいくつかあります。代表的なものを以下にまとめてみました。
声調が異なる単語
台灣華語(國語) | 普通話 | 台灣華語(國語) | 普通話 |
氣質 | 气质 | qì zhí | qì zhì |
危險 | 危险 | wéi xuǎn | wēi xuǎn |
可惜 | 可惜 | kě xí | kě xī |
寂寞 | 寂寞 | jí mò | jì mò |
法國 | 法国 | fà guó | fǎ guó |
期待 | 期待 | qí dài | qī dài |
企業 | 企业 | qì yè | qǐ yè |
発音が異なる単語
台灣華語(國語) | 普通話 | 台灣華語(國語) | 普通話 |
垃圾 | 垃圾 | lè sè | lā jī |
乳液 | 乳液 | rǔ yì | rǔ yè |
懸崖 | 懸崖 | xuán ái | xuán yá |
暴露 | 暴露 | pù lù | bào lù |
台湾華語ではピンインを使わない
中国語を学ぶ際、必ず最初に覚えなくてはならないのが発音記号。日本語で言うところのフリガナにあたるものです。
普通話では、ローマ字で発音を表す「ピンイン(拼音)」が使われています。ローマ字で表すため、日本人はもちろん、西洋人の中国語学習者もピンインがあればの発音ができるという便利さがあります。
一方、台湾では「ピンイン(拼音)」をつかわず、「注音符号」と呼ばれる発音記号を使用しています。「ボポモフォ(bo po mo fo)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
この「ボポモフォ」は、注音符号の最初の4文字で「ボポモフォ」と言ったりもします。注音符号は、漢字の一部、もしくは全部を使った37文字からなり、母音と子音のようなものを組み合わせて1文字の発音を表現します。
実際にどんなものかというと、以下のような感じです。
なお、注音符号は台湾で発明された発音記号ではありません。簡体字とほぼ同時期、清朝末期から中国で研究開発が進められたもので、繁体字と同じく、戦後台湾に持ち込まれたものです。
台湾では学校教育でもこの注音符号が使われており、小学4年生までの「国語」の教科書には全ての漢字に注音符号のルビが振ってあるそうです。
スマートフォンやパソコンで文字を入力するときも、台湾人はこの注音符号の組み合わせで漢字を入力していきます。外国人に中国語を教える先生などを除き、台湾ではピンインの読み方や入力方法がわからない人がほとんどだそうです。
台湾華語と中国語では単語も違う
台湾の街中を歩いていても、普通話で習った単語とは違う単語が使われているものを見かけますが、台湾華語と普通話では、言い方がまったく違う単語が多く存在します。
例えば、台北市内の重要な交通の脚でもある地下鉄。普通話では地铁(dì tíě) ですが、台湾では捷運(jié yùn)と言います。全然違いますね。
他にも、代表的な単語として以下のようなものがあります。
日本語 | 台湾華語 | 普通話 |
パイナップル | 鳳梨( fèng lí) | 菠萝(bō luó) |
ヨーグルト | 優格(yōu gé) | 酸奶 (suān nǎi) |
カップラーメン | 速食麵 (sù shí miàn) | 方便面(fāng biàn miàn) |
タクシー | 計程車 (jì chéng chē) | 出租车 (chū zū chē) |
クーラー | 冷氣機(lěng qì jī) | 空调(kōng tiáo) |
単語の違いを「もっとたくさん知りたい!」という人は、ぜひ以下もご覧ください。
台湾の行政院大陸委員会が発行した資料の一部ですが想像以上に多くてびっくりしました。
このサイトでは、上記で紹介したような言い方は違っても意味は同じ(異名同実)もの以外にも、同じ単語でも意味が違うもの、台湾特有、普通話特有の単語が検索することができて便利です。
台湾で気を付けたほうがいい日常会話のフレーズ
単語以外にも、あいさつや日常会話の中でも台湾と中国で表現に違いあります。ここでは、日常的によく使うものの内、台湾で会話をする時に気を遣った方がいいものをいくつか紹介します。
あいさつ
区分 | 台湾 | 中国 |
朝の挨拶 | 早安(zǎo ān) | 早上好(zǎoshang hǎo) |
お昼、午後の挨拶 | 午安(zǎo ān) | 下午好(xiàwǔ hǎo) |
夜の挨拶 | 晚安(wǎn ān) | 晚上好(wǎnshang hǎo) |
時間を問わず使える挨拶 | 你好(nǐ hǎo) | 你好(nǐ hǎo) |
“你好”以外は言い方が異なりますね。“晚安”は中国では「おやすみ」で寝る前にかける言葉ですが、台湾では「こんばんは」の意味で、使える時間帯が長いようです。
台湾で“早上好(おはよう)”、 ”晚上好(こんばんは)”を使ったら「微妙な空気が流れた」とか、「中国人みたいだからやめてといわれた」といった話も何度か耳にしたことがあります。あいさつの際は、気を付けたほうがよさそうです。
どういたしまして
中国では、「ありがとう(谢谢 xiè xie)」に対する「どういたしまして」の返しの言葉として、“不客气 (bú kè qì)”や“不用謝(bú yòng xiè)”を使うことが多いです。
ところが台湾では、”不會(bú huì)”を一般的に使います。この”不會(bú huì)”は、「ありがとう」と言われるほどのことはしていません、といった謙遜の意味合いが入った表現になります。
中国では“不会(bú huì)”は、「(能力、スキル的に)できない」という意味になるので、「ありがとう」のとっさの返しとして、”不會(bú huì)が出てくる発想になかなか行きつかないですよね。
台湾華語と普通話は違いがある
今回見てきたように、台湾華語と普通話にはいろいろな相違点があります。しかし、ビジネスはもちろん、ネットやSNSを通じて、台湾と中国の交流が頻繁になっている今、違いはあっても、言葉が全く通じないということはないようです。
とはいえ、台湾に行ったり、台湾人と会話をしたりする際には、台湾の言い方や表現に合わせるのが、相手の国を理解し尊重することになると思います。台湾に行く際や台湾人と交流する際は、すべては無理でもできるだけ覚えて使いたいですよね。
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無理な勧誘など一切ございませんので、是非一度コーチとお話しください。
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昨年ごろからでしょうか。大型書店では『台湾華語』の書籍の量が増え、以前は希少だった台湾華語を教えるスクールもだいぶ目につくようになり、台湾華語人気の急激な高まりを感じています。この記事では、台湾華語と普通話との違いや、その特徴までまとめてます。