中国語でよく見られる軽声化の種類と具体例

中国語でよく見られる軽声化の種類と具体例
中国語でよく見られる軽声化の種類と具体例
ニャース

みなさんは「軽声化」をご存知ですか?軽声化とは、ある字の声調が軽声に変化する現象をいいます。

例えば「大意」は「dà→dàyi」のように声調が軽声に変化することがあります。このような変化は適当に行われるものではなく、そのほとんどには何かしらの理由や意味が伴います。先ほど例として挙げた「大意」を軽声化させるのは「大意(dàyì)」と「大意(dàyi)」という二つの言葉を区別することためです。

大意(dà):文章・話の大体の意味やあらすじ
大意(dàyi):油断する

今回の記事では、よく見られる軽声化する場合とその意味と理由についてご解説していきます。

まずは一般語彙の軽声化から見ていきましょう。

一般語彙の軽声化(もともと軽声で発音されるもの)

一部の名詞に含まれる「子」や複数を表す「们」などは元々軽声で発音されます

例:
(zhuōzi) テーブル
(yǐzi)  椅子
(nǐmen) あなたたち
(wǒmen)私たち
//de)などの助詞

これらは軽声化というより、最初から軽声なので、軽声で発音するものと捉えておきましょう。

また、冒頭で説明した「大意」のように同じ漢字で二通りの解釈ができてしまう言葉を区別するために、軽声化させる場合もあります。


mǎimài:買うことと売ること     
mǎimai:商売

西
dōng:東西(東と西)       
dōngxi:もの


Lǎo: (思想家の)老子
lǎozi:俺様


Sūn: (軍事思想家の)孫子    
sūnzi:孫

これらのようなペアは漢字表記が同じため、同じように発音すると文脈無しの会話では区別できないことがあります。軽声化させることで、文脈がなくても区別できるようになります。

動詞の重ね型における軽声化

動詞の重ね型とは同じ動詞を2回並べて使うことですが、動詞を重ねることで語気をやわらげ、「ちょっと~する」あるいは「ちょっと~してみる」というニュアンスが生じます。

以下に示すように、動詞の重ね型では二つ目の動詞を軽声化させます。

(kànkan) 
ちょっと見る、ちょっと見てみる

(shuōshuo
ちょっと話す、ちょっと話してみる

(wánwan
ちょっと遊ぶ、ちょっと遊んでみる

研究研究(yánjiūyanjiu
ちょっと研究する、ちょっと研究してみる
※「研究研究」のような二文字の動詞の重ね型は2文字を同時に軽声化させます

2つ目の動詞は本来の意味ではなく「ちょっと~」という語気のみ表しているため、1つ目の動詞とは役割が違うことが分かるかと思います。

それを発音にも反映させたのが軽声化の果たす役割です

例えば「看看(kànkan)」では、一つ目の「看」は「見る」という本来の意味を表しているため「kàn」と発音し、二つ目の「看」は本来の意味ではなく、「ちょっと」というニュアンスのみ示しているため、軽声の「kan」で発音するのが一般的です。

量詞の軽声化

「一个」の「个」や「一下」の「下」などの量詞もよく軽声化します。

このような軽声化には大きく2種類あります。

  1. 量詞の意味が薄れたために軽声化する場合
  2. 量詞の意味がはっきり出ているにもかかわらず軽声化する場合

量詞の意味が薄れたために軽声化する場合

量詞は本来、ものの数や量を数えるために使用される言葉ですが、それが数や量を数えるためではなく、動作の軽さを表したり、“だいたいの数”を表すために使われることもあります。

これらの場合は量詞の意味が薄れていますが、いつもと同じように発音すると意図がうまく伝わりません。「この量詞はいつもの使い方ではない」ということが何かの手段で示せればいいですが、その手段の一つが「軽声化」です。以下の例文で具体的に見ていきましょう。

帮我买水吧?
Bāng wǒ mǎi {} shuǐ ba?
ちょっと水を買ってくれる?

「瓶」は本来ボトルを数える量詞ですが、例文では「ちょっと~」という気軽さを示すために使われており、本来の意味では使われていません。そのため、ここの「瓶」は軽声化して読むのが普通です。

ちなみに「瓶」の前にもともと「一」があり、それが省略されてしまいました。後述しますが、気軽さや動作の軽さを示すときには「一」を軽声化あるいは省略するのが一般的です。
例文では省略していますが、もし省略しないで「帮我买一瓶水吧?」と言う場合には「一」と「瓶」を同時に軽声化させて言いましょう。

もし「帮我买一瓶水吧?」を軽声化させずにはっきり発音した場合は、元々の意味「水を一本だけ買ってくれる?」になります。もっとも「水を一本だけ買ってくれる?」のような依頼は少し変なので、普通はそのように言いません。

再吃两块吧。
Zài chī {} ba.
もう{}食べて。

こちらが「だいたいの数」を表す例です。例文のイメージがわかない方は「親が子どもに対して何かをもっと食べるように勧めているシーン」を想像してみてください。

中国語の「两」という数は本当に「2」を表す場合もあれば、概数の「少量のいくつか」を表す場合もあります。

例文では「两块」を「liǎng kuài」と読むか、「liang kuai」と読むかによって、文の意味はかなり違ってきます。

「liǎng kuài」と読んだ場合、意味は「もう二枚食べて」。
「liang kuai」と読んだ場合、意味は「もう何枚か食べて」。

このように、本当にその数なのか概数なのかを区別するために、軽声化がしるしとして用いられています

量詞の意味がはっきり出ているにもかかわらず軽声化する場合

量詞が本来の意味を表しているにもかかわらず、軽声化する場合があります。
例えば以下の文章です。

我买了一玩具。
Wǒ mǎile yí/yíge wánjù.
私はおもちゃを一買った。

この文では「个」が本来の意味を表しているにもかかわらず、軽声で発音されることがあります。

「个」のほかに「次(回)」や「张(紙などを数える量詞)」「瓶(ボトルを数える量詞)」などが用いられる文でもこの現象は起きます。

这里有一纸。
Zhèli yǒu yìzhāng/yìzhang zhǐ.

桌子上有一水。
Zhuōzishang yǒu yìpíng/yìping shuǐ.

これらの量詞に共通している点は、「どれも日常的に頻繁に使われている量詞」ということです。これらはネイティブにとっては耳にタコができるぐらい聞く頻度が高いため、「一张纸」の「一」と「纸」、そして間に「zhang」という音さえ聞こえれば「一张纸」のことと分かるわけです。

日本語でも助詞の「は」「が」など日常的に多用される言葉は会話では省略することがありますよね。中国語でも同じことが起きて、頻繁に使われる量詞は声調をはっきり言わなくても伝わるということで、声調が省略され「zhāng→zhang」のような軽声化が起きます

ニャース

「“张”をはっきり言わなくても伝わるのなら、いっそのこと“一纸”のように量詞も言わない方がより楽で良いのでは?」と思われた方もいるかもしれません。

鋭い意見ですが、紙の量詞は「张(枚)」以外に「叠(重ね)」「盒(箱)」などもあるため、「一张纸」なのか「一叠纸」なのか「一盒纸」なのかを判別するために、声調は必要ではないが、量詞そのものは必要です。

「一」の軽声化

「一」もよく軽声化し、主に二種類があります。一つは同じ動詞に挟まれたときに起きる軽声化です。


kàn yi kan


shì yi shi

“一”の本来の意味は数字の「一」ですが、「看一看」や「试一试」では動作が軽いことを示す機能的な役割しか果たしておらず、それが発音にも反映されたからか、軽声化しました。

ちなみに、「看一」の二つ目の「看」や「试一」の二つ目の「试」も軽声化させるのが一般的です。動詞の重ね型である「看」などでも二つ目の動詞を軽声化させるので、通ずるものを感じますね。実は「看一看」の「一」があまりにも軽く発音されすぎて消えてなくなったのが「看看」なので、「看一看」と「看看」は元々は同じ表現だったのです。

「一」によく起きる軽声化のもう一つは「一+量詞」の場合です。

量詞の軽声化の章で量詞の意味が薄れて軽声化することがあると説明しましたが、その場合は「一」も量詞と一緒に軽声化します。

帮我买瓶水吧?
Bāng wǒ mǎi yiping shuǐ ba?

「軽声+軽声」で読んだ「一瓶」の意味は「一本」という数量ではなく、「ちょっと、少し」という動作の軽さです。

ここで「一瓶」をはっきりと「四声+二声」で発音した場合は「一本」という意味になり、文章全体は「水を一本だけ買ってくれる?」の意味ですが、「軽声+軽声」で読んだ場合は「ちょっと水を買ってくれる?」という意味になります。

この文の「一」があまりにも軽くなりすぎて消えてなくなることがあり、「帮我买瓶水吧?」のように量詞だけが残った文章になることがありますが、意味は元と変わりません。

ここでの「一」の軽声化する理由はやはり「本来の意味ではなく動作の軽さを示している」ことを発音にも反映させたためだと考えられます。

「不」の軽声化

否定を表す副詞「不」も軽声化することがあります。それは同じ動詞・形容詞に挟まれて反復疑問文を作る時です。


chī bu chī
食べるか(反復疑問文)


bu
暑いか(反復疑問文)

ちなみに、反復疑問文とは動詞あるいは形容詞を反復させて作る疑問文のことです。こちらの記事にて詳しく解説していますので、興味のある方はぜひご一読ください(反復疑問文の記事公開後にURLを記載)。

反復疑問文の「不」は軽声化してもしなくてもよく、軽声化した場合は口調が優しく聞こえる傾向があります。

吃不吃?(“不”を軽声で発音)
食べるかい?

吃不吃?(“不”を四声で発音)
食べるか食べないかはっきり答えて。

「動詞+不+動詞」の二つ目の動詞も「不」と同様に軽声化することがあり、軽声化した場合は口調が優しく聞こえる傾向があります。

方位詞の軽声化

方位詞とは「上(~の上、~の表面)」「里(~の中)」など場所について、あるものがその場所のどこに位置するかを表す言葉です。

桌子(テーブルの
房间(部屋の

すべての方位詞に軽声化が起きるわけではなく、軽声化がよく見られるのは以下のものです。

~上(~の上、~の表面)

例:桌子
zhuōzi shang
テーブルの上

~里(~の中)

例:教室
iàoshì li
教室の中

~面/~边/~头(前、后、外、里などと一緒に方位詞を作る)

例:房间外/房间外/房间外
fángjiān wàimian/fángjiān wàitou/fángjiān wàibian
部屋の外

これらの軽声化は必ず起きるものではなく、「教室里(jiàoshì lǐ)」のように元の声調で発音されることもあります。

ニャース

私の感覚ですが、特に位置を強調しない場合は軽声で読み、位置を強調するときは元の声調で発音します。例えば「教室里(jiàoshì lǐ)」の「里」を三声の「lǐ」とはっきり発音した場合は、教室のほかではなく、“中”であると強調しているニュアンスが出ます。

方向補語の軽声化

方向補語(中国語:趋向补语)とは動詞の方向を示す補語のことで、代表的なものとして「~上去」「~出去」「~出来」などがありますが、これらもよく軽声化します。

他朝这边跑了过来
Tā cháo zhèbiān pǎole guolai.
彼はこちらへ向かって走ってきた。(过来:“話者のところへ向かってくる”という方向)

他从房间里走了出去。
Tā cóng fángjiānli zǒule chuqu.
彼は部屋の中から出ていった。(出去:“外へ出ていく”という方向)

大家把作业交上来吧。
Dàjiā bǎ zuòyè jiāo shanglai ba.
みなさん、宿題を出してください。(上来:“話者のところへ上がってくる”という方向)

方向補語はどんな場合でも軽声化するわけではなく、以下の法則性があります。

法則①

動詞と方向補語の間に「不」「得」が挟まれておらず、単独で用いられる場合は軽声化することが多い。

你跑过来吧。
Nǐ pǎo guolai ba.
走ってきてください。

法則②

動詞と方向補語の間に「不」「得」が挟まれる場合は軽声化しないことが多い。

我拿不起来。
Wǒ ná bù qǐlái.
私は持ち上がれない。

ただ「動作が実現可能か」を意識する場合は、動詞を重く読み、方向補語は軽声化させます。この場合「その動作は本当にできるのか?→できないだろう。」という反語的なニュアンスが出ます。

你回得去吗?(Nǐ huí de qu ma?)
本当に帰れるの?(=帰れないだろう。)
※「回」を重く、そしてやや長めに発音してください。

方向補語を軽声化させるかさせないかは、その方向補語が担う役割が脇役的なものか主役的なものかによって決められます。

例えば「你跑过来吧」では「跑」が主要な部分で、「过来」は「跑」の方向を示すという脇役的役割しか果たしていないゆえに軽声化します。

一方で、「我拿不起来」のような「不」が挟まれる文では「我拿」だけでは否定文とはならず、「不起来」による動作に対する説明があってはじめて文が成立します。

ここでの「不+起来」は脇役ではなく主役的役割を果たしているため、それが発音にも反映されて「Wǒ ná bù qilai」ではなく「Wǒ ná bù qǐlái」と発音されるわけです。

まとめると、方向補語が担う役割が脇役的なものの場合は軽声化し、主役的なものの場合は軽声化しません

軽声化のまとめ

軽声化の種類が多く全部覚えるのは難しいと思いますが、まずは以下のことをおさえておきましょう。

  1. 本来の意味を表すときは元の声調で、機能的な意味を表すときは軽声
  2. 主役的な役割を果たす時は元の声調で、脇役的な役割を果たす時は軽声
  3. 「椅子」の「子」など最初から軽声で読まれるものは軽声

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ニャース
日本語・韓国語を独学で学んだ中国語ネイティブ。語学が大好きで、某語学学習アプリ制作会社で教材開発に一年半ほど携わった後、日本で留学をするために退職。趣味は翻訳、ゲーム、将棋など。「好きなことで生き、好きなことをやって人の役に立つ」がモットー。ライターとしても、学習者の役に立つことを強く意識して執筆、活躍中。