「中国への赴任が決まったけれど、出発までに中国語をどこまで準備すればいいのか」。辞令から出発までの時間は限られていて、赴任する本人も、送り出す人事のご担当者も、何から手をつけるかで迷いがちです。
この記事は、三菱重工業の海外人事として100人を超える社員の赴任に立ち会い、いまは中国語コーチングの the courage を運営する筆者が、赴任前・駐在前の中国語研修の進め方を、人事と本人の両方に向けてまとめたものです。出発までの期間ごとの進め方から、着任後の続け方、同行家族の学び方まで扱います。
- 中国語がどこまで要るかは、仕事の中身・立場・暮らす街で変わります。まず「現地で何ができればよいか」を決めるのが出発点です
- 出発までの期間が短いほど、学ぶ場面を絞ることが成果を左右します
- 研修は出発の日で終わりにせず、着任後も同じ相手と学び続けられる形にしておくと、現地で伸び続けます
中国赴任で、中国語はどこまで必要か
赴任先でどれくらい中国語を使うかは、人によって大きく違います。見きわめる手がかりは、次の3つです。
- 仕事の中身:現地の社員や取引先と直接やりとりするのか、通訳や、日本語を話せる現地スタッフが間に入るのか
- 立場:工場や現場の管理、営業、経営層など、ふだん誰と話すことが多いのか
- 暮らす街と生活:日本人の多い大都市か、日本語や英語が通じにくい地域か。ご家族と一緒か
筆者が海外人事として見てきた中では、日系企業を相手にするポジションや、社内の対応が多いコーポレート部門であれば、日本語ができる中国人の社員がサポートしてくれることも多く、中国語がまったくできなくても業務をこなせるケースもありました。
一方で、中国語を武器にして、自分で商談まで進められるようになりたいのであれば、HSK(中国語の検定試験。いまの形式は1〜6級)の6級でも足りないと思います。6級の合格はいわば入口で、そこから実践を重ねるなかで、商談で通用する力が育っていきます。
とはいえ、「まったく使わない」と「商談までこなす」の間には、いくつもの段階があります。それぞれの段階で現地でできるようになることを、目安として表にまとめました。
| 中国語の力の目安 | 現地でできるようになること |
|---|---|
| HSK3級程度 | あいさつや簡単な会話ができます。会食のあとの雑談で、日本語や英語に中国語を少し混ぜて、その場を和ませることもできます。買い物など、暮らしも少しラクになってきます |
| HSK4〜5級程度 | 社内のチャットが読めるようになり、どんなやりとりが行われているかを、スムーズにつかめるようになってきます。会議で翻訳アプリや通訳を使っていても「訳が少し違うのでは?」と気づいて正せるので、業務に役立てられるレベルといえます |
| HSK6級に合格し、実践を積んだあと | 中国語を武器に、自分で商談を進められる力に近づいていきます |
また、仕事では中国語を使わずにすむ場合でも、タクシーの運転手とのやりとりや飲食店での注文、住まいの管理会社への連絡、病院の受付など、暮らしの中では中国語が必要になる場面がたくさんあります。研修の目標を決めるときは、この表を目安にしながら、現地でどの場面に対応できればよいかを考えてみてください。
赴任が決まったら、人事と本人で最初に決めること
研修を申し込む前に、人事のご担当者と赴任する本人とで、次の4つをすり合わせておきましょう。ここが決まっていると、研修の中身がぶれにくくなります。
1. 出発までに使える時間
出発日だけでなく、引き継ぎや引っ越しの準備で忙しくなる時期も見込んで、「週に何時間を中国語に回せるか」を見積もります。研修を業務時間内に受けてよいのか、業務のあとに自分で学ぶのかも、このときに決めておきます。
2. 到達目標(現地で何ができればよいか)
目標は資格の級ではなく、現地の場面で決めると、研修の中身に落とし込みやすくなります。たとえば「着任の日に中国語であいさつと自己紹介ができる」「タクシーで行き先を伝えられる」「現地スタッフの報告の要点をつかめる」のように決めると、研修で何に時間を使い、何を後回しにするかがはっきりします。
3. 受ける人(本人と同行家族)
ご家族も一緒に赴任する場合は、ご家族の学び方も早めに考えておきます。詳しくは、この記事の後半で取り上げます。
4. 費用をどこまで会社が負担するか
会社が費用を負担するのは本人の分だけなのか、ご家族の分も含めるのかを決めておきます。赴任前の研修に限るのか、着任後に続ける分も対象にするのかもあわせて決めておくと、研修会社に見積もりを頼むときも話がすぐに進みます。
出発までの期間別の進め方
限られた時間で成果を出すには、期間に合わせて「やること」と「やらないこと」を決めるのが近道です。
出発まで1か月ほどの場合
この期間で、すべてを学ぶのは難しいと思います。着任して最初の1〜2週間に出会う場面だけに絞りましょう。the courage の受講生でも、1か月の場合は、発音の基礎と簡単なフレーズの練習までにとどまります。
- 発音の土台(声調と呼ばれる音の上がり下がり)を短く押さえる
- あいさつ・自己紹介・数字・お礼とお詫び
- 空港、タクシー、ホテル、食事の注文、支払いでのやりとり
- 「もう一度言ってください」「ゆっくり話してください」など、聞き返すひとこと
出発まで3か月ほどの場合
発音を時間をかけて固め、自分の言いたいことを基本の文の形で言えるようにします。the courage では、HSK3級を目指した受講生は、みなさん2〜3か月で合格しています。先ほどの表でいえば、あいさつや簡単な会話ができ、会食の場を和ませられる段階です。
- 発音を丁寧に固める(あとから直すのは大変なため)
- 「〜したい」「〜できますか」など、基本の文の形を自分の言いたいことで使う
- 仕事の場面:着任のあいさつ回り、自己紹介、会議でのひとこと
- 生活の場面:住まい、買い物、病院
出発まで半年以上ある場合
基礎の文法をひと通り学び終えて、仕事に役立つ力まで伸ばしていける期間です。the courage では、半年あれば、HSK5級の合格まで目指す受講生が多くいます。表でいえば、社内のチャットが読め、通訳の訳の違いにも気づけるようになる段階です。
- 聞き取りの練習に時間を使う
- 業界や社内でよく使う言葉を、自分用の単語帳にまとめる
- 現地の社員に話す場面を想定して、話す練習を重ねる
研修の形の選び方
赴任前の研修には、いくつかの形があります。それぞれの向き不向きを知っておくと、選びやすくなります(表は左右に動かして見られます)。
| 研修の形 | 向いているケース | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| マンツーマン | 出発まで時間がない。仕事の内容に合わせて学びたい | 1人あたりの費用は高くなりやすい |
| 少人数のグループ | 同じ時期に複数の社員が赴任する | 人数が多いと、1人が話せる時間が減る |
| オンライン | 引き継ぎで忙しい。着任後も同じ形で続けたい | 自習の管理が本人任せになりやすい |
| 通学・講師の派遣 | 対面で学びたい。会社の会議室で集中して行いたい | 着任後は同じ形で続けにくい |
| e-learning(パソコンやスマホで学ぶ動画や教材) | 単語や聞き取りの自習を補いたい | 話す練習は別に用意が必要 |
赴任前の時期は、仕事の引き継ぎと重なり、レッスンの外で自習する時間を取りにくいのが実情です。レッスンを受けるだけでなく、自習の計画や時間のやりくりまで一緒に考えてくれる相手がいると、短い期間でも結果を出しやすくなります。
赴任後も伸ばし続けるために
赴任前の研修だけで、仕事と生活に要る中国語をすべて身につけるのは、なかなか難しいものです。しかも着任から数か月は、新しい仕事と暮らしの立ち上げに追われ、学習がもっとも途切れやすい時期です。次のような形を、出発前に用意しておきましょう。
- 赴任前と同じ講師やコーチと、オンラインで学習を続ける(それまでの学習の記録や苦手なところを引き継げる)
- 現地で言えなかった言葉をメモしておき、次の学習の材料にする
- 対面で学びたい場合は、現地で通える教室を探しておく
- 着任後に学習に使う時間を、赴任前のうちに決めて、予定に先に入れておく
同行家族の中国語
ご家族は、買い物や病院、近所の人とのやりとりなど、暮らしの中で中国語を使う場面がむしろ多くなります。本人の研修とあわせて、ご家族が出発前に何をどこまで準備するかも話し合っておくと安心です。
現地での暮らしの様子は、駐在員の家族として中国で暮らした方の体験談も参考になります。
the courage では、ご家族の受講にも対応しています。ご家族は、ご本人とは使う中国語も、進み方も、合う学び方も違うため、ご本人とは分けて、一人ひとりに合わせて進めます。お申込みは、会社がまとめて行うこともできますし、ご家族がご自身で申し込み、あとから会社と精算するケースもあります。家族割引もあります。適用の条件などは、無料カウンセリングで、気軽に聞いてみてください。
研修会社を選ぶときに確かめること
研修会社を比べるときは、少なくとも次の点を問い合わせの段階で聞いておくと安心です。
- 出発までの短い期間に合わせた、集中的な研修があるか
- 業務の内容や到達目標に合わせて、中身を変えてもらえるか
- 受講の様子を、人事にどのように伝えてもらえるか
- 仕事の都合で休んだときに、振り替えやフォローがあるか
- 着任後も、同じ形で学び続けられるか
各社の研修の形や特徴は、法人向け中国語研修おすすめ10社の比較で、同じ観点から並べています。
the courage の赴任前研修
the courage は、コーチングで中国語の上達を支えるスクールです。担当のプロコーチが、何をどの順番で学ぶか、忙しい中でどう時間を作るか、どうすれば途切れずに続くかまで、受講する方と一緒に考えます。
研修の前には、元海外人事の筆者が、会社として目指すことと、赴任する方の仕事や生活の様子を伺い、出発までの期間に合わせて内容を組み立てます。赴任前研修の実績には、日本を代表する大手企業で役員を務める方のマンツーマン研修もあります。
- 出発までの期間と、現地で使う場面に合わせて、学ぶことを絞り込みます
- 着任後も、出発前から担当しているコーチが、オンラインで引き続き伴走します。学習の記録を引き継げるので、着任直後の忙しい時期も途切れにくくなります
- 1名のマンツーマンから、同じ時期に赴任する方のグループまで対応します(グループは5名程度までがおすすめ。10〜20名で行ったこともあります)。筆者は前職からグループコーチングを手がけ、世界的なハイブランドの販売員の方々にも提供してきました
- セッションの日時は、担当コーチと相談して夜間や週末に組むこともできます。経営層の方の受講も多く、引き継ぎで忙しい時期の予定に合わせて調整します
- 学習の予定と実際に学んだ時間をアプリで記録しているので、計画どおりに進んでいるかを確かめながら進められます
- 受講の様子は、人事の方と相談した形でお伝えします(チャットグループで日々共有する、3か月ごとや最終回のあとに報告する など)
- 研修はオンラインが基本ですが、対面での実施もご相談に応じます。上海に赴任する方は、提携スクールの上海校で対面のレッスンを受けることもできます(こちらはコーチングではなく通常のレッスンです)
赴任前の中国語研修についてよくある質問
まとめ:赴任前の中国語研修は「絞る」と「続ける」
赴任前・駐在前の中国語研修では、まず「現地で何ができればよいか」を決め、出発までの期間に合わせて学ぶ場面を絞ることが欠かせません。あわせて、着任後も同じ相手と学び続けられる形にしておけば、限られた準備期間を現地での成長につなげられます。人事のご担当者と本人とで最初にすり合わせておくことが、成果の出る研修への第一歩です。
出発までの期間や、現地で使う場面を伺いながら、研修の組み立てを一緒に考えます。ご相談は無料で、オンラインで行います。
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the courage 伊地知
三菱重工業株式会社で海外人事を担当し、100人以上の海外赴任をサポート、語学研修の導入も経験
キャリアコンサルタント(国家資格)
著書『話すための中国語文法体得ドリル【初級編】』(コスモピア、2025年)
日本で最初の語学コーチングスクールで、コーチ育成や中国語コーチングの立ち上げを行う。これまでに1,000名以上の受講生の語学学習をサポート。2019年、語学学習を通じて一人一人が「自分の人生を自分で決める勇気」を持てるようにという想いでthe courage(カレッジ)を設立。雑誌「聴く中国語」への寄稿、大手英語コーチングスクールのコーチング監修など実績多数。